「再開発とリノベーション」

一見すると相反するキーワードを、「福井のまちづくり」という共通言語でつなげ、まちを高め合うために、どうすればいいのか?

そんな悩ましい問題を抱えながら、まちの中に入って真剣に模索を図り、いつもその現場の中心にいる人。それが「まちづくり福井株式会社」(以下、まちづくり福井)の代表取締役・岩崎正夫さんです。

福井駅前の中心市街地では、2023年の北陸新幹線開業に向け、再開発ビル「ハピリン」のオープンを皮切りに、中央1丁目を中心とした再開発事業が進行中。

住宅や商業施設の郊外化によって、どの地方都市も直面してきたように、福井の中心市街地も急速に空洞化。それを受け、福井駅前のにぎわいを取り戻すため、第3セクター「まちづくり福井」が、2000年に設立されました。

岩崎さんは、生まれも育ちも生粋の福井の「まちっ子」(福井駅東口周辺)。現在はまちづくり福井の社長として、「リノベーションスクール@福井」の運営に携わり、駅前再開発事業の役員も担っています。幼い頃から、長年福井駅周辺を見つめ続けてきた彼の目には、福井のまちの姿は、今どのように見えているのでしょうか。

–岩崎さんの経歴を教えてください。

岩崎「大学を卒業してすぐ、福井商工会議所に就職して、地域振興や観光推進などの仕事に携わってきました。その後、まちづくり福井ができて、2007年に部長として出向、2013年から3年間商工会議所に戻り、異動の希望を出して、もう一度まちづくり福井に帰ってきました。まさか社長として戻ってくるとは思わなかったけど(笑)」

–なぜ、「まちづくり福井」に戻りたかったのですか?

岩崎「現場の仕事が好きなんですよね。長い間、地域振興に携わってきたんですが、遠く離れたまちのことを考えて机の上で悩むより、自分のフィールドに近い場所で、まちの人と顔を突き合わせて仕事ができるのは楽しい。特に、駅前商店街の方々は商工会議所時代から、よく一緒に飲みに行ったりしてお付き合いも多かったので」

-(ハピリンに続いて)いよいよ、電車通りのビルも再開発工事が始まりましたね。

そうですね。福井駅の目の前の商店街の一角が、工事の大きな囲いに覆われて。これから5~6年はこういった風景が駅前のあちこちで見られると思います。

–岩崎さん個人としては、再開発とリノベーションの相反する価値観を、どのようにお考えですか?

岩崎「福井駅前は、狭く、なおかつ人口も少ない。観光やブランドメインの戦略を否定するわけではありませんが、福井で同じことをするのは難しいですよね。『ミクストユース*』という考え方を知り、再開発もリノベーションも混在している福井駅前だからこそ、それを表現できるんじゃないかと思っています」

-新しく大きな建物が軸となる再開発と、古くて小さな建物を活かすリノベーションは、寄り添うことができるのでしょうか?

岩崎「たしかに、再開発は数百億をかけて、長いスパンで回収しなければならない大きな事業ですから、効率を言えば手っ取り早く稼ぐことができるものを取り入れる方が、一番安全です。でも、まちを長く保ち、一般市民の方も使いやすい場所にするには、決定打ではなくても高望みしないところで『続ける』ことも大事。すべてを再開発に委ねるのではなく、小さな規模でも、まちの人が表現し、それをまたまちの人で受け止めて、循環ができるような場所にしたいと思っています」

-福井駅前の魅力は、どこにあると感じますか?

岩崎「駅前って昔からずっと、『人』がまちを彩っていると思うんです。僕は『駅裏』と呼ばれていた東口に近い日之出地区で生まれ育ったので、駅前までは歩いて行ける距離でした。父親がタクシーの運転手で駅前の停留所にいましたし、おばさんも駅前のデパートガール、親戚はガレリア元町の喫茶店を経営していたりね。小学生の僕が一人でふらっと駅前に行っても、大人たちが遊んでくれるんですよ。一度、正夫が迷子になった!ってまちの人がみんなで探してくれたこともあったね(笑)」

-なんだか下町人情のような(笑)岩崎さんにとって、駅前はかっこいい大人たちが働き、生活をする場所だったんですね。

岩崎「そうですね。できれば福井駅周辺が表や裏と区別されずに、観光や商業だけではなく、日常生活に近い非日常の場所にしたいですね。今でも、駅周辺に集まってくる人たちは、ちょっと個性的な人が多いのですが、こういった彩り豊かな人々が生活し、仕事も生活もうまくつながっていくような場所にするにはどうすれば良いか、ということをよく考えています。小さな頃、僕が感じていたような豊かな人情あふれるまちになれたらいいですね」

-福井に住む人も、初めて福井を訪れる人も、親しみのわく友達のような駅前になるといいですね。今日はありがとうございました。